開業医と勤務医の働き方について 〜承継開業という開業の仕方〜
みなさんこんにちは。私伊勢呂が2019年4月に大宮エヴァグリーンクリニックを前院長から経営を引き継ぎ、承継してからお陰様で2年が経過しようとしています。
医師として13年目、勤務医として11年、開業医として2年の経験から勤務医と開業医との違いや開業について私なりの見解を述べたいと思います。
私は承継開業という方法で開業医になりました。あまり知られていない承継開業について、さらに、開業医として地域の皆様に愛されるクリニック経営のためにどうすれば良いのかについても、私なりにお伝えできたらと考えています。
◆目次◆
1 勤務医と開業医の違い
1.1 勤務医と開業医の1日の働き方
1.2 勤務医と開業医の人付き合い(プライベート)
1.3 勤務医と開業医のスタッフとの関係
1.4 勤務医と開業医の将来の見据え方
1.5 勤務医と開業医の収入の違い
2 開業の仕方について
2.1 新規開業
2.2 承継開業
3 地域に愛される開業医になるために
3.1 患者さんを大切にする
3.2 自分についてきてくれるスタッフを大切にする
3.3 周りの医師や業者さんとの関わりを大切にする
1 勤務医と開業医の違い
勤務医と開業医とでは働き方を始めとして、色々な違いがあります。今回は、その違いを様々な側面からお話したいと思います。
1.1 勤務医と開業医の1日の働き方
勤務医と開業医とで大きく違うことの一つに勤務時間があげられます。
●勤務医
ほとんどの場合、勤務時間は朝の9時から夕方5時。
科によっては緊急オペや入院患者さんの急変などでいつ呼び出しされてもおかしくありません。また、入院している患者さんがいらっしゃるので緊急的な処置を施すこともありますし、勤務時間外で働くことも少なくありません。ですが勤務医の先生は、例えば外科であれば手術が多く忙しくもやりがいを感じている先生が多くいらっしゃいます。手術が生きがいだ、という先生も非常に多いです。その為、この勤務スタイルにも負担を感じている人は少ないと思います。また勤務医の先生の勤務形態の特徴として、空いた日にはアルバイトで外勤先に外来勤務に行かれることが多いこともあります。
●開業医
例えば当院の場合、9時から夜7時までが勤務時間、そのうち2時間が休憩時間になります。外来の患者さんが予想外に多く来院しない限りは、基本的に時間内に終了します。勤務医と違って大きな手術や緊急手術をすることは少なく、外来の患者さんと会話する時間、診察が主になります。もちろん必要な検査や手術は行いますが、他スタッフの都合もあり勤務時間内に行うことがほとんどです。当院は日曜日のみ休みですが、木曜日や水曜日などに休みの日を設けているクリニックも多くみられます。
1.2 勤務医と開業医の人付き合い(プライベート)
勤務医の先生方は基本的に、勤務する病院の先生や看護師さんと長い時間を過ごすので自然に仲良くなります。勤務医時代は勤務する病院の飲み会や、昔の同僚や仲間とプライベートな時間を過ごすことが多くありました。開業医になってからは、このような関係に加えて、地域の医師会の先生方とコミュニケーションをとることも増えました。また、開業医といっても経営者です。「経営者の会」などにも参加し、医師以外の経営者と交流を持つことで日々経営などの勉強させて頂いています。
1.3 勤務医と開業医のスタッフとの関係
勤務医で働いている時には、一緒に働く仲間というのは元々そこで働いていた人や採用され新しく仲間に加わる人たちです。どちらも自分で選んだ仲間と働いているわけではありません。極端に言えば、そこで人間関係が険悪になったとしても、お互いにずっと在籍していくわけではないので割り切った関係として捉えることができます。耐えられない場合は、そこを辞めるという選択肢もあり、そこまで人間関係に責任を持たなくても問題はないでしょう。それに比べ開業医は、自分が採用したスタッフと常に顔を合わせて働くことになり責任も伴います。その為、採用には非常に慎重になります。一度関係がこじれると修復するのもなかなか難しいため、常に人間関係が良好に保てるように努力をしています。
1.4 勤務医と開業医の将来の見据え方
勤務医の先生は数年に一度転院を繰り返し、最後にはどこかに腰を据えて長らく勤務した後に開業する先生もいれば、勤務医として退職後もアルバイトで色々な病院に勤務する先生、または雇われ院長として勤務する先生も多くいらっしゃいます。開業医は60-70歳過ぎまで勤めた後、2つの選択肢があると考えています。子供や親戚などの近親者に、あるいは仲介業者を通じて承継して医院を存続させていく先生もいれば、後継者がおらず畳んでしまう先生もいます。もしクリニックを畳んでしまうのであれば承継してくれる勤務医の先生を探して引き継ぐ方が、スタッフも患者様もクリニックに残ることが出来るため皆んなが幸せになることが出来ます。
勤務医と開業医の最後は大体がこのようなになることが多いと思われます。
1.5 勤務医と開業医の収入の違い
勤務医の先生の給与は若いうちは基本的に年次で決まっています。科によって変化することはあまりありません。ある程度一人前の医師になって、勤務する病院と交渉して給与額を決定することが多いと思います。開業医で法人の場合は売り上げの範囲内で金額を自身で決定します。また、個人事業主のクリニックの場合は売り上げから全経費を差し引いた残りが自分の給料となります。
2 開業の仕方について
開業には大きく分けると新規開業と承継開業の2パターンがあります。それぞれの特徴と問題点などを解説していきます。
2.1 新規開業
新規開業というのは何もないところから、まさにゼロから始める開業です。場所選びから始まり導入する機械や一緒に働くスタッフの採用など全て自分で決めていきます。その開業資金は平均すると1億円、またはそれ以上の金額がかかることもあります。患者さんが最初から来てくれれば良いのですが開業してすぐに軌道に乗るのは困難で、最初の運転資金が底をつきることもあります。新規開業のメリットとしては開業医の先生の好きな環境でやりたいことを自身が採用したスタッフと築き上げることができるので自由度が高いところだと思います。新規開業は従来の開業の基本で、一昔前までは新規開業がほとんどでした。
2.2 承継開業
承継開業というのは実の親や義理の親など、親子で承継する場合と、私のように第三者から承継する場合があります。承継とは引き継ぐという意味です。
●承継開業のメリット
私のように第三者から継ぐ場合、最初の資金はかかるのですが、承継した時点で働くスタッフ、必要な機械などが揃っているので運転資金の心配があまりないことと、人材採用の労力が無いということです。また、患者さんもそのまま来院される場合が多く、売上の予想が出来て運転資金が枯渇する可能性が低くなります。また、残された患者さんやスタッフにとっても、クリニックを畳むのではなく残して承継するという選択が双方にとってハッピーであることは言うまでもありません。
●承継開業のデメリット
一方、内装や機械など既存のものが揃っている反面、自由度が低いというデメリットもあります。そして、一番の問題点は既存のスタッフと上手くやっていけるのかということです。承継開業には既存のスタッフと良いコミュニュケーションをとっていく器用さも求められます。
この点さえ克服出来れば、クリニックを畳むという選択肢よりもやる気のある若い医師に承継する選択肢が、患者さん、開業医、開業したい医師、スタッフ、全ての方にとって良い選択ではないでしょうか。
余談ですが、親子承継された場合でも人間関係で随分と悩まれている方が多いようです。肉親だからこそ気を使うこともあるのだと思います。
3 地域に愛される開業医になるために
3.1患者さんを大切にする
勤務医時代から変わらないことなのですが、より一人一人と向き合うことがとても大切です。患者さんの話を全身全霊で傾聴し、最善の治療を行うことが何よりも重要なことだと思います。また、地域からの評判も大切で一度ネガティブな印象が付くとそのイメージを払拭することは大変難しくなってしまいます。勤務医との違いは勤務している病院の看板や後ろ盾がありません。自分自身が病院の看板です。全ての責任は自分自身にあることをしっかりと考慮しなければなりません。
3.2 自分についてきてくれるスタッフを大切にする
開業してわかったことですが、スタッフを一人雇うのにも膨大な時間とお金がかかります。その為、一緒に働いてくれるスタッフには、働きやすい環境を作り長く働いて欲しいと思います。当院の事例ですが、スタッフの紹介で、そのスタッフの旦那さんも一緒に働いてくれることになりました。これは働いているスタッフが家族に紹介したいと思うほどにクリニックを評価してくれていたことで、とても喜ばしいことです。また、スタッフの多くは近隣に住んでいるので、スタッフを大切にすることは地域からの良い評判にもなりますし、良い雇用につながると身をもって体験しました。このように働くスタッフさんたちを大切にするということが地域でも愛されるクリニックにつながると確信しています。
3.3 周りの医師や業者さんとの関わりを大切にする
開業医にとって、医師会との繋がりや懇意にしている業者さんと良い関係を築くことはとても大切です。色々な情報が得られますし、お互いにスタッフや患者さんの紹介にもつながります。また、業者さんが一緒に働くスタッフになることもあります。このように周りの環境を大事にすることも、地域に愛されるクリニックになるためには必要なことだと思います。
以上、簡単に私の経験と見聞きして勉強したことを書かせて頂きました。
私は第三者による承継開業という方法を選択しましたが、今後はこの方法が主流になってくるのではと思っています。また、やる気のある勤務医の先生と引退を考えている開業医の先生を繋ぎクリニックを承継することは社会的にも意義のあることだと考え、また自身も体感しております。
私自身も数年間は開業に一歩踏み出せない勤務医でしたが、多くのお力添えがあり第三者による承継開業を実現させました。新規開業に比べて踏み出す一歩のハードルだいぶ低くなったと思われます。現在、忙しくも充実した日々を送っております。ぜひ、同じようなお気持ちの勤務医の方がいらっしゃればとの想いで「独立を考えたらまっさきに読む医業の承継開業」という本を執筆しました。そして、このコラムを掲載しています。
若輩者ではありますが、この経験を生かし、誰かの新しい一歩のお手伝いができればと承継開業の仲介と医療経営のコンサルティングをスタートさせました。ぜひ、一緒に「伴走」させて頂きたいと思っております。
少しでも興味のある方はこちらからお問い合わせください。
熱い想いから長文となりましたが、最後までお読み頂きましてありがとうございます。