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過活動膀胱
(おしっこ・尿が我慢できない、尿の回数が多い)

 

トイレに急に行きたくなる、おしっこしたくて我慢できない、トイレに間に合わず漏らしてしまった、トイレの回数が多い、そんな悩みを抱えている方は多いと思います。このような症状は過活動膀胱と呼ばれます。このページはそのような症状ででお悩みの方のために作りました。私の日常診療の経験と最新の過活動膀胱ガイドラインの情報に沿ってわかりやすく説明していきたいと思います。治療や検査、ご自身の読みたい部分だけ掻い摘んで読んで頂ければ幸いです。

◆目次◆

1 過活動膀胱とは
 1.1 どのような人が過活動膀胱にかかっているのか。
2 過活動膀胱の検査
 2.1 尿検査
 2.2 腹部超音波検査
 2.3 採血検査
 2.4 排尿日誌
 2.5 膀胱鏡検査
3 過活動膀胱になる原因
 3.1 男性の過活動膀胱の原因
 3.2 女性の過活動膀胱の原因
4 過活動膀胱の治療
 4.1 行動療法
  4.1.1 医学的に根拠のあるとされている行動療法
  4.1.2 現時点では医学的に根拠が示されていない行動療法
 4.2 薬物治療
  4.2.1 50歳以下の男性の薬物療法
  4.2.2 50歳以上の男性の薬物療法
  4.2.3 女性の薬物療法
  4.2.4 薬物療法の副作用
 4.3 ボトックス膀胱内注入療法
  4.3.1 ボトックス膀胱内注入療法の実際

過活動膀胱とは

過活動膀胱とは、尿意切迫感(急な尿意がありトイレを我慢できない状態)があり、頻尿や夜間頻尿も伴う状態です。尿もれ、尿失禁を伴う場合もあります。つまり、急におしっこに行きたくなって我慢できない状態があればそれらを全て過活動膀胱と呼ぶのです。
ただ、膀胱癌や尿路結石や膀胱炎などによって生じている過活動膀胱の状態は除きます。それらの明らかな感染症や結石が無い状態で尿意切迫感がある状態を過活動膀胱と呼びます。

どのような人が過活動膀胱にかかっているのか。

40歳以上では15−20%の方が過活動膀胱の症状を持っていると言われており、国内に1000万人以上の患者様がいると言われております(研究によって異なります)。男女でみると男性の方がやや多い傾向にあります。リスク因子としては男性は前立腺肥大症、うつ症状であり、女性はうつ症状、肥満が挙げられます。過活動膀胱はQOL(Quolity of life:生活の質)を悪化させるためさらにうつ症状を悪化させる可能性もあります。また、過活動膀胱を治療せずにいることで低活動膀胱(十分に排尿出来ず、排尿後の残尿が非常に多い状態)に移行してしまう場合もあります。これらの理由から過活動膀胱は早期の治療介入が重要となります。過活動膀胱の症状があらにも関わらず検査・治療をしていない患者様は非常に多いと思います。当院では内科や健診や消化器科で受診される方が多く、そのついでに長年悩む頻尿や尿意切迫感について相談されるという方もいらっしゃっいます。辛い頻尿や尿意が我慢できないなどの症状がある場合は早期の泌尿器科受診をお勧めします。

過活動膀胱の検査

過活動膀胱と同じように尿意切迫感を生じてくる病気があります。
例を挙げると膀胱癌、尿管結石、膀胱結石、膀胱炎などです。
過活動膀胱はそれらの病気を除外できてはじめて診断できるのです。
受診される患者様で、とりあえず薬だけ欲しいという方も稀にいらっしゃいます。検査をしないで薬だけ処方してしまうと大きな病気を見過ごしてしまう可能性があり大変危険です。過活動膀胱の診断には下記の検査が欠かせないということを知っておいてください。尿意切迫感は身体からの危険を知らせる合図かもしれません。

尿検査

尿検査には尿沈渣、尿培養検査、尿細胞診検査があります。
尿沈渣は赤血球、白血球や上皮細胞の形などを顕微鏡で確認する検査です。感染の有無や出血の有無を主にみています。
尿培養検査は尿中に細菌がいればその種類と細菌に対してどの薬が効くか効かないか(薬剤感受性)をみています。
尿細胞診検査は尿中に癌細胞がないかを顕微鏡で確認します。癌細胞は脆い組織なので壊れやすく尿中に溢れ出てきます。尿路に癌がある場合は早期発見に役立ちます。

腹部超音波検査

腎臓、膀胱、前立腺、尿管を観察し、結石や腫瘍、尿路奇形の有無を観察します。尿管は超音波では観察が難しいですが、尿管に異常がある場合は水腎症(尿路が閉塞して腎臓が腫れる)が生じるためそこで判断します。当院でも行っております。

採血検査

糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病、腎機能、肝機能、前立腺腫瘍マーカー、炎症などのチェックをします。全身状態の確認や薬の使用量の指標となります。
また本人は気づいていない重大な病気が隠れている場合(重度の糖尿病や悪性腫瘍など)もあるため、初診時には検査が必要です。

排尿日誌

24時間患者様に排尿をした時刻とその量を記載してきていただきます。この検査は非常に重要な検査です。頻尿とはいうものの、1回排尿量が50ccなのか300ccなのか、本人の訴えだけではわからないので、客観的に見るためには非常に重要な検査です。1回排尿量が50ccで頻尿の場合は膀胱の容量が小さいと推測できますし、1回排尿量が300ccで頻尿であれば飲水量が多いだけなのかもしれません。
当院では原則的に男性の患者様は必須にしております。

膀胱鏡検査

腹部超音波検査や尿検査などで尿路の癌や結石などを疑う場合は膀胱鏡の検査を行います。尿道からカメラを挿入し、尿道、膀胱を観察します。当院の膀胱鏡は軟性膀胱鏡であり、痛みは従来の硬性膀胱鏡に比べて格段に軽減され、非常に身体に優しくできる検査です。
過活動膀胱を疑う患者様全員に行うわけではありません。必ず事前に検査する理由を説明致しますのでご安心ください。

過活動膀胱になる原因

過活動膀胱になる原因としては神経の病気(脳梗塞や脊髄損傷、パーキンソ病など)による過活動膀胱と、特に大きな原因もなく起きる過活動膀胱があります。後者の原因のなく起きる場合はほとんどであり、ここでは明らかな原因のない男女の過活動膀胱の原因についてお話します。

男性の過活動膀胱の原因

男性の原因は前立腺肥大症と加齢です。

前立腺肥大によって膀胱に負担がかかり、膀胱の筋肉が衰えます。また加齢や生活習慣病により膀胱の血流が低下し、膀胱の機能が衰えます。

女性の過活動膀胱の原因

女性の原因は女性ホルモンの低下と加齢です。
女性ホルモンのエストロゲンが蓄尿機能に影響していると言われています。また、男性と同様に加齢や生活習慣病により膀胱の血流が低下し、膀胱の機能が衰えます。

過活動膀胱の治療

過活動膀胱の治療には医学的に根拠のあるもの(日本泌尿器科学会ガイドラインで推奨されているもの、保険適応となっているもの)と根拠のないものがあります。インターネット上にはそれらの情報が飛び交っており当院で行っているものも含めてそれらの情報をまとめてみました。
皆様の参考になれば幸いです。

行動療法

行動療法とは薬などの治療ではなく、生活指導や体操などで過活動膀胱を改善する目的の治療です。医学的に根拠のあるものは積極的に当院でも勧めております。3

医学的に根拠のあるとされている行動療法
  • 体重減少・・肥満の方が減量することで過活動膀胱の症状が改善すると言われています。
  • 膀胱訓練・・尿を我慢させることで蓄尿症状を改善させます。膀胱に負荷をかけることで膀胱の容量を増やす訓練です。
  • 骨盤底筋体操・・副作用もなく自宅で簡易に行うことが可能。過活動膀胱の症状を改善させるデータが出ており推奨されています。
現時点では医学的に根拠が示されていない行動療法

禁煙、運動療法、食事指導、アルコール、飲水指導、便秘の治療などは現時点では医学的に過活動膀胱を改善させるというデータは出ておりません。今後有効性が報告される可能性はあります。

薬物治療

過活動膀胱の基本的な治療は薬物療法です。
男性、女性によって治療のアルゴリズムが違うので、分類して記します。

50歳以下の男性の薬物療法

50歳以下の男性は前立腺肥大を伴わないことがほとんどなので前立腺肥大症の対する薬は使う必要はありません。
第1選択薬はβ3刺激薬(ミラベグロン、ビベグロン)か抗コリン薬(コハク酸ソリフェナシン、イミダフェナシン、フェソテロジンフマル酸塩など)です。基本的にはβ3作動薬の方が副作用も少ないのでβ3刺激薬から使い始めるのが一般的です。

50歳以上の男性の薬物療法

50歳以上の男性は前立腺肥大を伴うことが多く、腹部超音波検査で前立腺肥大の有無を確認し、α1ブロッカー(タムスロシン、シロドシン、ナフトピジルなど)から開始します。また最近ではPDE5阻害薬(タダラフィル)も第1選択薬になり得ます。そしてこの2種類の薬を使用してもまだ過活動膀胱の症状が残る場合は先述したβ3刺激薬や抗コリン薬を併用します。

女性の薬物療法

女性の薬物療法は基本的にはβ3作動薬か抗コリン薬です。50歳以下の男性と同様にβ3刺激薬から開始するのが一般的です。

薬物療法の副作用
  • 抗コリン薬・・副作用で多く訴えられるのは口渇と便秘です。非常に少ないですが尿閉になる可能性もあります。
  • β3刺激薬・・基本的に副作用は少ないが、口渇、便秘などがみられます。
  • α1ブロッカー・・射精障害や起立性低血圧がみられることがあります。基本的には安全な薬です。

ボトックス膀胱内注入療法

 

膀胱の筋肉に直接ボトックスを注入することで、膀胱の神経を抑え過活動膀胱の症状を改善します。
抗コリン薬やβ3刺激薬で効果がなかった症例が適応となります。例えばコハク酸ソリフェナシンやイミダフェナシンを数ヶ月使用していても頻尿や尿意切迫感が残存する方に、それらの症状の改善が期待出来る治療です。

ボトックスはもともと顔面痙攣や眼瞼痙攣などに適応がありましたが、2020年4月より過活動膀胱も保険適応となりました。
2020年5月より当院でもボトックス膀胱内注入療法を行っております。長い間辛い尿意切迫感や頻尿の症状で悩まれていた方でもボトックス膀胱内注入療法で改善される場合があります。当院でも多くの患者様の症状が改善されてます。詳しくは当院泌尿器科医師までお尋ねください。

ボトックス膀胱内注入療法の実際
  • 12週間以上の間隔を空けて行います。
  • 1回の治療は10分以内で終了します。
  • 副作用には尿閉や尿路感染がありますが、保険適応となっており安全に行える治療です。

現在当院では徹底した新型コロナウイルス感染対策をしながら診療を継続しております。

またオンライン診療も行っております。
全国どこからでもオンライン診療は可能です。泌尿器科、消化器科、内科でお悩みの方は是非上記のリンクか下部のバナーよりご相談下さい。

何卒よろしくお願い申し上げます。

この記事を執筆した人
伊勢呂哲也
伊勢呂哲也

日本泌尿器科学会認定・泌尿器科専門医
名古屋大学出身
年間30000人以上の泌尿器科と消化器科の外来診察を行う
YouTubeでわかりやすい病気の解説も行なっている。

消化器科(胃カメラ)・泌尿器科・内科・人間ドック
大宮エヴァグリーンクリニック 院長 伊勢呂哲也

大宮院

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