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膵臓がんの「超早期発見」が現実に KRAS遺伝子×胃カメラで未来が変わる可能性も

[2025.08.06]

1 はじめに

「沈黙の臓器」とも呼ばれる膵臓。その膵臓にできる癌=膵臓がんは発見が難しく、見つかった時点で既に進行していることが多いため、治療が難しい「厄介な癌」として知られています。

実際、年間約4万4000人が膵臓がんと診断され、そのうち約4万人が命を落としているという報告もあります。つまり、診断された方の多くが治療の手が及ばない段階で見つかってしまっているのです。

この膵臓がんに対し、近年注目されているのが「超早期発見」という新たなアプローチです。特に、私たちにも馴染みのある「胃カメラ(胃内視鏡検査)」を活用した、驚くべき新技術が注目されています。

 

2 なぜ膵臓がんは“気づかれない”のか?

膵臓は胃の裏側、腹部の深い位置にあり、普段あまり意識される臓器ではありませんが、消化酵素(膵液)や血糖値を調整するインスリンを分泌する重要な役割を担っています。

そんな重要な役割を持つ膵臓ですが、癌が発生しても初期症状がほとんどなく、発見された時にはすでに進行していることが多いのが現状です。

また、膵臓は周囲の臓器に埋もれているため、超音波検査(エコー検査)やCT検査でも早期の腫瘍を見つけるのが難しいというという現状があります。

膵臓がんの5年生存率はわずか10%前後。これは、発見時には手術できないほど進んでいるケースが多いための数字の表れとなっています。

3 早期発見できれば「治る可能性」もある

しかし、もしも膵臓がん「超早期」に発見することができれば、5年生存率は80%近くまで上昇するとも言われているのです。

つまり、膵臓がんは見つけるタイミング次第で「治せる癌」に変わる可能性が十分にあるのです。

そこで今、注目されているのが胃カメラ(胃内視鏡検査)を利用した新たな膵臓がんの発見方法です。

4 胃カメラで膵臓がんの兆候がわかる!?

膵臓は、消化酵素を含む膵液を分泌し、それを「膵管(すいかん)」という管を通じて十二指腸へと流しています。この十二指腸は胃カメラで確認可能な部位であり、胃カメラをする際には必ず観察する臓器です。

この膵液の中に、膵臓がんの発生に関わる重要な遺伝子変異の情報が含まれていることが分かってきました。

特に注目されているのが「KRAS(ケーラス)遺伝子変異」です。

5 KRAS遺伝子とは?

KRAS(ケーラス)遺伝子は、細胞の増殖や分裂をコントロールする「シグナル伝達系」に関わる重要な遺伝子です。通常は細胞の成長を適切に調整する役割を持っていますが、この遺伝子に異常が生じると制御不能な細胞増殖=癌の原因となる可能性があることが分かっています。

膵臓がん患者様の約94%でKRAS遺伝子に異常が見つかっているとされており、「膵臓がんのサイン」とも言える重要な情報です。

つまり、胃カメラ(胃内視鏡検査)で十二指腸内に漏れ出た膵液を採取し、KRAS遺伝子異常の有無を調べることで、膵臓がんの超早期発見が可能となるのです。

6 検査の精度は?患者への負担は?

この検査法では、膵液中に含まれる微量な遺伝子を解析することで、膵臓がんのリスクを評価します。実際、大阪大学などの研究グループの報告によると、胃カメラで十二指腸の膵液を採取し、KRAS遺伝子変異を解析することで、膵臓がんの約81%を早期に検出できたという結果が得られています。

さらに、胃カメラ検査の中で痛みもなく自然な流れで膵液を採取できるため、患者様への負担は最小限です。通常の胃カメラに数分追加するだけで済み、麻酔下での検査であれば「気づかないうちに終わっている」ことがほとんどです。

検査前には、膵液の分泌を促す注射を行うのが一般的で、この処置により、KRAS遺伝子の検出精度を高めることができます。

7 どんな人におすすめ?

この検査は、以下のような方に特におすすめです:

  • 糖尿病と診断された方(膵臓がんの初期症状である場合も)
  • 喫煙歴がある方(膵臓がんのリスクが高いことが知られています)
  • 肉食中心の食生活の方
  • 家族に膵臓がんの既往歴がある方
  • 40代以降で健康診断を毎年受けているが、膵臓のチェックはしたことがない方

特に「胃カメラを受ける予定がある」方にとっては、オプション検査としてこの膵液採取を追加するだけで、大きな安心に繋げられる可能性があります。

8 この検査はすぐに受けられるの?

2025年初頭の時点では、この検査法はまだ一部の研究施設や専門機関での導入にとどまっています。しかし、すでに一般的に普及している胃カメラ技術を活用することができるため、近い将来、健診施設やクリニックでも導入される可能性が非常に高いと考えられています。

膵液を採取するだけで医療機関側の負担も少なく、患者側の身体的負担も小さいことから、低価格なオプション検査として実用化が進むのではと期待されています。

9 大宮エヴァグリーンクリニックでは…

当院(大宮エヴァグリーンクリニック)では、この膵液採取によるKRAS遺伝子検査は現時点では実施しておりません。

ただし、腹部超音波検査(エコー検査)や血液検査など、膵臓の状態をチェックするための一般的な診療は行なっておりますので、お気軽にご相談ください。

10まとめ

膵臓がんは、進行してからでは治療が難しい癌ですが、早期発見できれば「治せる癌」です。

胃カメラ(胃内視鏡検査)という馴染みある検査を活用し、膵液から遺伝子情報を検出するこの新技術は、膵臓がんの未来を大きく変える可能性を秘めています。

大切なのは、「知らなかった…」と後悔する前に、正しい知識を持って備えておくこと。そして、検査のチャンスがあれば、一歩踏み出してみることです。

あなたのその一歩が、大切な命を守ることにつながるかもしれません。

この記事を執筆した人
伊勢呂哲也
伊勢呂哲也

日本泌尿器科学会認定・泌尿器科専門医
名古屋大学出身
年間30000人以上の泌尿器科と消化器科の外来診察を行う
YouTubeでわかりやすい病気の解説も行なっている。

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