ステージ4からの一発逆転も?進化するがん治療「プレシジョン・メディシン」とは
1 はじめに
「癌のステージ4」と聞くと、多くの方が「もう治療法が限られている」「あとは延命しかないのでは」といった不安を抱くのではないでしょうか。しかし、近年の医療の進歩により、「一発逆転」の可能性を秘めた治療法が登場しています。それがプレシジョン・メディシン(精密医療)です。
当院(大宮エヴァグリーンクリニック)ではこの治療は行っておりませんが、がん治療の選択肢として皆様に知っておいていただきたい内容となっています。今回は、あくまで情報提供として、プレシジョン・メディシンの概要と現状をわかりやすく解説させていただきます。
2 プレシジョン・メディシンとは?
「プレシジョン・メディシン(Precision Medicine)」とは、患者さん一人ひとりの癌の遺伝子変異に合わせて治療を最適化する、新しい医療の考え方です。
従来のがん治療では、癌の種類(胃がん、大腸がん、肺がんなど)と進行度(ステージ)に応じて、あらかじめ定められた「標準治療」が行われてきました。たとえば「ステージ4の大腸がん」であれば、抗がん剤や放射線治療などの組み合わせが基本とされ、全国どこでもおおむね同じ治療が行われます。
一方で、近年の研究により、同じ種類の癌でも人によって「遺伝子の異常パターン」が異なることが明らかになってきました。この違いを捉え、個別に適した薬剤を選ぶのがプレシジョン・メディシンです。
まさに「オーダーメイド医療」の代表ともいえるアプローチであり、2015年には米国のオバマ大統領が国家プロジェクトとして推進することを表明したことで注目が一気に集まりました。
3 どんな検査を行い、どんな薬を使うのか?
プレシジョン・メディシンでは、まず患者様のがん細胞から遺伝子情報を調べるための「がん遺伝子パネル検査」を行います。これは、数十から数百種類のがん関連遺伝子に異常がないかを一度に調べる検査です。
そして、特定の遺伝子異常が見つかれば、それに反応する薬剤(分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬など)が候補となります。これらの薬剤は、従来の抗がん剤のようにがん細胞も正常細胞もまとめて攻撃するのではなく、がん細胞の特定の分子や経路を狙い撃ちにするため、副作用が抑えられやすく、効果も高いとされています。
たとえば「HER2遺伝子」に異常がある乳がんには「トラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)」といった薬剤が有効であるように、今後もさまざまな薬が開発・承認されることが期待されているのです。
4 日本での保険適用と課題
プレシジョン・メディシンの考え方は非常に理想的に思えますが、実際に受けられる人は限られています。
日本では現在、遺伝子パネル検査が保険適用となるのは、標準治療(手術・抗がん剤・放射線など)をすべて終えたあとに限られています。つまり、最初からこの検査を受けて治療を選ぶということは、保険診療の範囲では難しいのが現状です。
また、検査を受けても「異常が見つからない」「異常があってもそれに対応する薬が日本未承認」という場合もあります。実際に、プレシジョン・メディシンで有効な治療にたどり着けるのは、検査を受けた方のうちわずか9%程度と言われています。
さらに、保険外で行う場合は、検査だけで40万~100万円程度、薬剤費まで含めると数百万円単位の自己負担が生じることもあります。
5 海外での治療・地域格差も課題に
欧米では、プレシジョン・メディシンはより早期の段階で導入されることも増えており、治療成績の向上にも貢献しています。日本においても、将来的には保険適用の拡大や、より早い段階での遺伝子検査の導入が期待されています。
また、プレシジョン・メディシンを提供できる医療機関は、都市部に集中しており、地域による格差も指摘されています。「知ってはいるけど、通える場所にない」「紹介先がわからない」といった声も少なくありません。
6 それでも「知っている」ことに価値がある
プレシジョン・メディシンは、今後のがん治療を大きく変える可能性を持った分野です。
たとえ現時点で誰もが受けられるものではなくても、「このような治療が存在する」という知識が、いざというときの選択肢を広げるカギになるかもしれません。
標準治療では効果が得られなかった方が、遺伝子異常に対応した薬で劇的に改善したという報告もあり、まさに「一発逆転」の可能性がある治療です。
7 まとめ
大宮エヴァグリーンクリニックでは、プレシジョン・メディシンに関する診療や検査は行っておりません。
しかし、多くの皆様にこの治療を知っていただきたく、医療情報の提供をさせていただきました。
癌に向き合うすべての方にとって、「こんな治療もある」という事実を知っていただくことは、これからの医療との関わり方に大きなヒントとなるはずです。
もし今後、この分野に関心を持たれた場合は、専門医やがん専門病院、セカンドオピニオン外来などでの相談をおすすめします。

日本泌尿器科学会認定・泌尿器科専門医
名古屋大学出身
年間30000人以上の外来診察を行なう。
YouTubeでわかりやすい病気の解説も行なっている。
再生医療専門クリニックも運営