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動物愛護団体への寄付について

[2021.12.20]

今回は当院から動物愛護団体へ寄付をすることに決めた経緯について、想いを綴らせていただきます。

私・大宮エヴァグリーンクリニックの院長・伊勢呂は、満2歳になるロシアンブルーのオス猫・ハグと生活しておりました。ハグはとても元気で、大切な家族として日々私を癒してくれたり楽しませてくれたり……2年間、素敵な時間をともに過ごしてきました。
ところが、ハグは今年10月の末から急に歩けなくなり、すぐに、立つことさえできなくなってしまいました。
私はひどく動揺し、急遽近所の動物病院にハグを連れて行きました。診断は「神経系の病気でしょう」というもので、そのまま入院となりました。そうして、MRI・採血検査・髄液検査などをした結果、『猫コロナウィルス』に感染していることがわかりました(※人が感染する新型コロナウィルスとは全く関係ありません)。
それは、いわゆる〝難病〟と言われている病の一つで、獣医さんによると「完治は難しい」とのことでした。
ショックでした。病院でぐったりしているハグを見ながら、「今まで元気いっぱいだったのに」「なぜもっと早く気づいてやれなかったのだろう」「どうして守ってあげられなかったのだろう」など、様々な想いがこみ上げました。

獣医さんと話し合い、できる限りの治療をすることにし、病巣を一部摘出する手術も行うことになりました。
診てくださった獣医さんはとても立派で、優しい先生でした。この難病に対して、「治らない」という言葉は決して使いませんでした。その言葉は、飼い主にとって大きなストレスにもなるものですが、「難しいかもしれない」という言い方は、どこか一筋の希望さえ感じられるものでした。
動物とはいえ、ペットは家族の一員です。心配や不安は、ご両親がお子さんに向ける想いと何も変わらないものだと思います。
私自身も、勤務医時代に多くの末期の患者様と向き合ってきましたが、患者様やそのご家族の気持ちを本当の意味で実感したのは、この時が初めてだったかもしれません。
今回のことで痛感しました。家族は、例えそれが不治の病だとしても、僅かでも〝希望〟を持っていたいのです。元気になるのだという望みを抱いて、患者である家族(ペットを含む)と接していたいのです。それを、身をもって体験しました。
ハグは、手術前はほとんど意識がない状態でした。声を掛けても、全く反応がありません。痛々しい姿が胸に迫りました。手術は、脊髄を圧迫している感染巣を取るというもので、これによって少し元気になれるかも……とのことでした。まさに、そのわずかな可能性にかけて、手術をお願いしたのでした。
退院直後のハグは、手足は麻痺していて動かせない状態でしたが、首より上・顔は、しっかり動きました。喜怒哀楽の表情も見て取れました。しかし、口からの十分な摂食はできなかったため、経管栄養という鼻からの栄養を入れることになりました。また、自力で寝返りを打つことができないので、褥瘡(じょくそう)(床ずれ)防止のために3〜4時間ごとに体勢を変えてあげる必要がありました。
全身麻酔で、2時間程の手術でした。手術後1日で、意識は完全に回復しました。手足を時々ピクっと動かすようにもなってきました。そんなハグを見て、私は少し前向きになり「完全に元気になったら、また家で一緒に過ごそう」と考えるようになっていました。何せ、彼はまだ2歳です。これから10年以上は、私と楽しい時間を過ごせるはずだと思っていたのです。
術後4日ほどして、先生から「このまま入院していると、家で過ごす時間はもう取れなくなるかもしれない。帰るなら今のうちです」というお話がありました。私には「え?これから元気になるのでは?」という感覚もありましたが、とりあえず「自分が家でハグを元気にしたらいいんだ」と思い直し、術後1週間目に退院させました。
私には大宮での勤務があるため、四六時中付き添うことはできません。ですから、勤務の時にはクリニックの横にあるマンションの休憩室にハグを寝かせておいて、仕事の合間に様子を見に行くという

介護生活が始まりました。3〜4時間ごとに体勢を変えたり、口から餌をあげたり……もちろん排泄物のお世話などもその中に含まれます。
私は普段一人暮らしです。こまめに彼の世話ができる勤務状況だったからよかったものの、もし会社員で、1日8時間の勤務だったとすると、家を空けている時間は10時間前後になるでしょう。褥瘡(床ずれ)のケアもできなければ、餌や水分もあげられず、ただでさえ弱り切っているハグに、さらなるストレスを与えてしまったでしょう。当然、寿命にも関わってくると思います。また、今回のようにある程度ケアできる環境にあったとしても、それが何ヶ月にも及ぶ長期間であったら、私のような一人暮らしの飼い主では難しかったと思います。
やがて、「自宅で元気に」という私の期待とは裏腹に、ハグの体力は徐々に消耗し、顔の動きも少なくなっていきました。手術で一時的に回復したとはいえ、原病のウイルスが身体を蝕んでいくのは止められなかったのだと思われます。
そうして退院2週間後……愛猫・ハグは虹の橋を渡り、私のもとから旅立ちました。
涙が止まりませんでした。彼のいなくなった部屋で一人、哀しみと向き合いました。

 

 

けれども……思えば、この最後の2週間は本当にかけがえのない時間でした。
動物を飼う・一緒に生活をするということは、決して楽しいことだけではないと思い知らされました。さらに、大切な家族の一員を喪うという哀しみを、深く感じることとなりました。
今まで生きてきて味わったことのない経験をしましたが、そこから学ぶことも多かったです。
何より、ハグの最期まで一緒に過ごせたのは、本当にありがたい時間でした。最後の2週間で、彼とお別れをする覚悟も自然とできていったと思います。
そして、担当の獣医さんが私と接する上で、「ハグは助かる見込がないのにそれを明言しなかったこと」、そのうえで、「私たちに残された時間は短いと気付くよう、さりげなく導いてくれたこと」……が、後になってわかりました。獣医さんは最後の日が近いことをわかっていたからこそ、自宅で一緒に過ごすことを提案してくれたのだと思います。今となっては、感謝してもしきれません。
一方で、退院してから最後の日まで、私は希望を捨てることなく、毎日のように「今日からご飯を食べ始めて、手足も少しずつ動きはじめるのではないか?」と思っていました。それは、心の支えでもありました。医師として末期の患者様の予後はだいたいわかっていたつもりですが、動物はほとんど経験がなかったので、「動物だからこそ奇跡的な回復をみせてくれるのではないか」という勝手な考えもあったのでしょう。その半面、なんとなく「これから回復するのは難しいのかなぁ」と思っている自分もいました。家族は、実に様々な感情と向き合わされるものです。
いずれにしても、患者様と接する医師としても、学ぶ点は非常に多かったと思います。

その後、「私のような一人暮らしの人が飼っているペットが介護状態になったとき、皆さんどうしているのだろう」と、個人的に調べてみることにしました。
残念なことに、そういうケースでは多くが殺処分になってしまうそうです。飼っている犬・猫の寿命がここ30年間で約2倍に延びたというデータがありますが、そのことに比例して、犬・猫の高齢に伴う認知症や介護の問題も深刻化しているそうです。
そういった情勢の中で、昨今、介護が必要になった動物たちを保護してお世話をしてくれるという団体も増えてきています。ただ、このような団体にペットを預けるには、かなりの金額が必要です。それでも、全国的にこのような体制が整っていけば、多くのペットたちが救われ、もしもの場合も、飼い主さんは納得いく形でその最期を見送れるようになると思います。

そういったことから、今回、介護が必要になった犬猫ちゃんを預かってくれるという『東京ペットホーム』に寄付をすることに決めました。たくさんの飼い主さんに「安心して任せられる」と評判の、信頼おける施設です。
この寄付は個人のみで行うつもりでしたが、クリニックのスタッフたちの同意を得て、クリニックとしても寄付することになりました。スタッフには動物好きな人が非常に多く、この寄付の話をした時にも多くのスタッフが賛同してくれたのです。
「動物好きな人に悪い人はいない」と言いますが、私は獣医さんではなく当院はペットクリニックでもないのに、動物に愛情を持ち動物愛護団体に寄付をしたいという志を持ったスタッフたちがいてくれることを、心から嬉しく思います。
このクリニックには、今後もそういう人たちに集っていただけたらと願いますし、そういう人たちと一緒に働きたいと思っています。

プライベートな話題の長文にも関わらず、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
引き続き、大宮エヴァグリーンクリニックをどうぞよろしくお願い申し上げます。


大宮エヴァグリーンクリニック
東京泌尿器科クリニック上野   理事長 伊勢呂哲也

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